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2話 幼い騎士への予期せぬ誘い

작가: みみっく
last update 최신 업데이트: 2025-12-08 23:51:20

 ユウは、そんな彼女の様子を察し、少しだけ歩調を緩めながら、優しく声を掛けた。

「服を汚したのを気にしてるのか?」

 図星を指されたクラリスは、ビクリと肩を震わせた。そして、ユウの視線から逃れるように、勢いよくそっぽを向くと、必死に取り繕うように答えた。

「ふんっ。そ、そんな訳……ないじゃない……」

 クラリスは、普段の強気な声とは打って変わって、微かに声を震わせながら答えた。その声には、隠しきれない動揺と、母親に叱られることへの恐怖が滲んでいる。否定の言葉とは裏腹に、彼女はユウの服を掴む指先に、一層強い力を込めた。その小さな手が、頼れる唯一の存在にしがみつくように、ユウのシャツの生地をぎゅっと握りしめていた。

「服の心配ならするなって! 俺が無理やり誘って泥遊びをしたことにして、俺が代わりに怒られるようにするから」

 ユウは、クラリスを安心させようと、屈託のない笑顔でそう言いきった。その言葉には、一切の躊躇いがなかった。

「……はぁ? そんな事しなくて良いわよ……」

 クラリスは驚き、思わず問い返したが、その声は僅かに戸惑っている。彼女は、ユウが自分を守ろうとしていることを理解し、心の奥底で暖かな感情が湧き上がるのを感じた。

「お姫様を守らないとだろ? 気にすんなって」

 ユウは、木の枝で作った『剣』を肩に担ぎ直し、まるで本物の騎士のように胸を張って言った。その青い瞳は、クラリスを真っ直ぐに見つめ、強い決意を映していた。

「ば、ばかぁ……ありがと……ユウ」

 クラリスの口から出たのは、照れ隠しのような罵倒と、心の底からの感謝の言葉だった。ユウの優しさと覚悟が、彼女の胸の中に渦巻いていた不安を、一瞬にして溶かしていった。

 クラリスは、心底安心したように、これまで潤んでいた琥珀色の瞳を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。そして、彼女はユウのシャツを掴んでいた手を離し、代わりにユウの小さな手をぎゅっと握りしめた。その温かい手の感触は、二人にとって何よりも心強い誓いのように感じられた。

 クラリスの家は、村の中でも一際目を引く豪邸だった。彼女の父親は裕福な商人であり、その屋敷には数人のメイドや使用人が雇われているほどで、クラリスはその商家の娘として何不自由なく育っていた。

 一方、ユウの家はクラリスの屋敷からほど近い場所にあった。ユウの母親は、農作業が比較的暇になる時期には、クラリスの家に出向いて手伝いをすることがあり、両家は以前から交流のある間柄だった。幼少期から家が近所であることに加え、子ども同士の年齢が近いということもあり、互いの家族ぐるみで仲が良く、頻繁に行き来があった。

 そんな背景もあり、クラリスが礼儀作法やテーブルマナーなどの習い事をする際にも、事あるごとにクラリスに強引に誘われ、ユウも半ば強制的に付き合わされて一緒に習う羽目になっていた。クラリスの母親もまた、礼儀正しく明るいユウのことを気に入っていたため、娘の少々強引な誘いを咎めることは一切なく、むしろ喜んで受け入れていた。

 その結果、ユウは農家の息子でありながら、礼儀作法や貴族的な教養の一部を、クラリスと共に身につけていくことになったのだ。

 二人が連れ立ってクラリスの屋敷の玄関を潜ると、そこには待ち構えていたクラリスの母親が立っていた。彼女は、クラリスの着ているフリルのついた豪華なドレスが、泥と土でひどく汚れているのを目にした途端、顔色をサッと変えた。

「クラリス!? その格好はなにごとなの!?」

 母親の鋭い声に、クラリスは恐怖でビクッと肩を震わせた。彼女はすぐにユウの背中に隠れ、その小さな体にしがみついた。

 ユウは、クラリスを自分の後ろにしっかりと庇うように立たせると、母親に対して一歩前に踏み出した。幼いながらも真剣な、一点の曇りもない表情をして、深々と頭を下げ、はっきりと謝罪の言葉を口にした。

「これは、その……お、俺がクラリスを無理やり誘って……すみません! クラリスは、悪くない……です」

 ユウの声は、わずかに震えていたが、クラリスを守ろうとする強い意志が込められていた。

 クラリスの母親は、ユウのあまりにも真剣な表情と、自分の娘を必死に庇おうとする健気な姿を目の当たりにし、言葉を失った。彼女の顔に浮かんでいた怒りの感情は、まるで陽炎のように消え去り、代わりに困惑と諦念の入り混じった表情になった。

「はぁ……そう、良いわ」

 母親は天を仰ぐように、深い、深い溜息をついた。

「遊ぶなら着替えて遊びに行きなさい! 二人とも、すぐに使用人に言って、お風呂に入って汚れを落としてから、ご飯にするわよ」

 そう言いながらも、母親の口元には、二人の友情に対する静かな安堵の笑みが、微かに浮かんでいた。

 ユウは、ホッと安堵の息を漏らすと、クラリスの母親に改めて深々と頭を下げた。そして、心からの感謝を込めて、太陽のような飛び切りの笑顔を母親に向け、帰宅しようとした。

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